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出産時のリスクは減らすことが出来るのか

興味深い記事がはてブのhotentryに出ていました.
妊娠のリスク知ってほしい―現役産婦人科医が11か条の心得 | エキサイトニュース
↑の記事のブックマークコメント
妊娠・出産のリスクについて,しっかりと書かれていて考えさせられました.
その中で気になった部分について調べてみました.太字箇所は私です.
素人がいろいろ調べてみたものなので,酷い箇所があったらこっそり教えて下さい.

葉酸の摂取

何だかサプリメントには怪しいのが多いよなとは思うのですが,赤ちゃんの二分脊椎という病気の発症リスクが,葉酸を摂取することによって大幅に減少したという疫学研究結果が報告されています.

葉酸は細胞増殖に必要なDNA合成に関与しています。またホモシステインというアミノ酸の一種が蛋白質の合成に必要なメチオニンという必須アミノ酸に変換される過程に必要とされます。妊娠初期は胎児の細胞増殖が盛んであるため、この時期に葉酸摂取が不足すると胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが高まることが示唆されています。

へー,こういう役割が葉酸にあったのか.

過去において欧米諸国では神経管閉鎖障害の発症率が高率であったこともあり、発症リスク低減に対する葉酸の効果について、大規模な疫学研究が数多く行なわれました。それらの研究は、受胎前後における充分な葉酸の摂取により、胎児の神経管閉鎖障害の発症リスクが大幅に減少することを示しました。そこで世界各国で妊娠を希望する女性に対してサプリメントなどの栄養補助食品からの葉酸摂取に関する勧告が出され、また葉酸を添加した食品も普及しました。その結果、欧米諸国での神経管閉鎖障害の発症率は近年著しく減少しています。こうした背景から、日本でも2000年に厚生労働省から神経管閉鎖障害のリスク低減のために妊娠の可能性がある女性は通常の食事からの葉酸摂取に加えて、いわゆる栄養補助食品から1日400μgの葉酸を摂取するよう通知が出されました。

http://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-05-002.html
葉酸サプリメントを飲んだほうがいいみたいですね.

死亡リスクの低減

毎年、約60人の妊婦が出産で死亡しています。

どんな死因なのかなぁと思って元ネタを探してみました.

妊産婦死亡数 1995 2000 2004 2005 2006 2007
総数 85 78 49 62 54 35
直接産科的死亡 67 62 38 45 40 30
 子宮外妊娠 2 5 - 1 4 2
 浮腫、たんぱく尿及び高血圧性障害 19 8 6 5 8 6
 前置胎盤及び胎盤早期剥離等 3 12 3 8 1 3
 分娩前出血 - - - - - -
 分娩後出血 4 11 10 6 7 9
 産科的塞栓症 20 14 8 12 12 -
 その他の直接産科的死亡 19 12 11 13 8 10
間接産科的死亡 18 15 10 17 13 5
原因不明 - 1 1 - 1 -
産科的破傷風 - - - - - -
HIV - - - - - -

平成19年 人口動態調査 妊産婦死亡の死因別にみた年次別死亡数及び率 の統計表
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL02020101.do?method=csvDownload&fileId=000001326377&releaseCount=2
CSVファイルの妊産婦死亡数を表にしました.
「直接産科的死亡」や「間接産科的死亡」といった用語についてはここを参照.
年々妊婦の死亡者数は減ったり増えたりしていますが,出ている年数が少ないのでこれだけだと何とも言えませんよね…『毎年、約60人の妊婦が出産で死亡しています』ってあるけど,2007年の死亡者数が35人だよ?と思う人もいるかもしれませんが,この資料は2008年9月8日公表なので間に合わなかったんじゃないでしょうか.しかし記事中にも挙げられている脳出血はこの死因の中の何処に分類されるのだろう?と思って検索してみると,「脳出血」実は妊産婦死亡のトップかという気になる記事を見つけました.

妊産婦死亡の原因は、国の人口動態調査が最も基礎的なデータです。しかし、この調査の分類法では妊婦の脳出血は、子宮など他の部位の出血と区別されていません。
ここでは、死亡原因を、まず「妊娠・出産に関わる死(直接的産科死亡)か、たまたま妊娠中に起きた問題による死(間接的産科死亡)か」で大別します。妊娠高血圧症候群による血圧上昇によるものなど妊娠が影響した脳出血は「直接産科死亡・出血」とされ、血管の奇形など妊娠と無関係な原因による脳出血は単に「間接的死亡」とされます。

脳出血は上の統計だときちんとカウントされてないのか,うーん.

2005年に亡くなった出産年齢の女性すべてを調べた厚労省調査「乳幼児死亡と妊産婦死亡の分析と提言に関する研究」によると、妊産婦死亡として統計に上がっていなかった妊婦さんの死は22例に及ぶことがわかりました。
この年、人口動態に載っている妊産婦死亡の人数は62名です。
でも実際にはこれより35%も多い84名の妊婦さんが亡くなっていたことになります。
22名の死亡のうち、半数近い10名を脳出血が占めていました。継いで心疾患6例、肺塞栓5例、大動脈瘤破裂1例とすべてを間接的産科死亡が占め、いずれも血流、血管に関わる疾患でした。
こんなにたくさんの妊婦さんが、産科では手に負えない病気で亡くなっていました。現代妊産婦死亡は、産婦人科病棟から救急救命センターへ、その主要な場所をひそかに移し始めていたのです。

「乳幼児死亡と妊産婦死亡の分析と提言に関する研究」はネットで軽く探した限り見つからず.見てみたい.マスコミで盛んに報道されている妊婦さんが亡くなる不幸の背景には,産婦人科医の不足はもちろんですが,産科だけでは対応できない事例が増えてきたからなのかもしれません.
人口動態調査の統計では救急救命センターでの妊産婦死亡を補足出来ないと,日本産婦人科学会が独自にそれらの施設も含めた取得したデータと,「乳幼児死亡と妊産婦死亡の分析と提言に関する研究」とを組み合わせた妊産婦死亡理由の推定順位で1位は脳出血とされています.元記事の11か条の心得では

専門家が考える安全な場所とは、緊急時に、高次の医療機関(産科医と新生児医と麻酔医が揃っていて、帝王切開や未熟児医療ができる体制)か、そこへすぐ搬送できるくらいの近さの産院です。

とありますが,それに加えて脳外科手術の出来る体制の医療機関も確保する必要があるのかもしれません.

脳出血が起きてしまったら、搬送先は、必ずしも産科や新生児科の高度施設である必要はありません。何より大事なのは脳外科手術ができるところへ一刻も早く運ぶということです。それなのに、一般の救急と周産期で情報の一元化がされていないのはまったく納得できない」と中井医師は言います。

脳出血のリスクを減らす

脳出血以外にも様々な命に関わるリスクがありますが,脳出血は産科では適切な対応が難しいと思われるのでそのリスクを減らせるか考えてみました.脳出血のリスクとして,高齢出産が挙げられています.

高齢出産が増えたことも、脳出血を死因の上位に押し上げた一因かもしれません。加齢によって血管が弱くなっているところへ妊娠期の血流量増加が重なるのですから、高齢妊婦さんは血管系の病気にかかりやすい傾向があると推察されます。

また陣痛により血圧が上昇し,脳出血の引き金ともなるとされています.陣痛の痛み,ストレスが脳出血のリスクとなるとなるなら,無痛分娩をすればいいのではないか?と思ったのですが,そう簡単なものではないようです.
慈恵病院/無痛分娩のQ&A/無痛分娩中の陣痛促進剤
など無痛分娩を紹介しているサイトでは,分娩をコントロールするため陣痛促進剤が使用されることがあると書いてありますが,
第66回厚生労働省交渉 陣痛促進剤 薬害・医療被害をなくすための厚労省交渉団
というサイトで,陣痛促進剤の副作用による血圧上昇,それによって引き起こされる脳内出血についての国と市民団体についての交渉が載っています,対して
http://d.hatena.ne.jp/tadano-ry/20071220
では陣痛促進剤の血圧上昇作用について疑問点を挙げておられます.
陣痛促進剤自体の脳出血とのかかわりはあまりなさそうですが,無痛分娩がリスクを下げるかどうかについては良く分かりませんでした.
リスクを下げる,という面から考えていくと,最終的に帝王切開による出産が一番いいのでしょうか?